ある種の食品を0℃より下の氷点直前までの温度におくことにより、長期保存が可能であることが分かってきている。また医学分野においては臓器の保存、移植に大きく貢献する可能性が期待されておりこれらは氷温効果と呼ばれている。氷温効果に関する研究は、本来物理化学的手法で研究されるべき側面を有しているにもかかわらず、現象が極めて応用サイド領域で生じるため微視的理解が進んでいない。その原理的解明には1次相転移問題の応用的課題として取り上げることが1つのアプローチと考えられる。 本研究では過冷却水滴に関して最低過冷却温度と、結晶化の実時間に着目して実験を行った。最低過冷却温度に対しては水の結晶化による体積変化から凍結温度を測定し、結晶化の実時間に対しては水滴の結晶化により発せられる弾性波を測定しその時間解析を行い、これらの実験により過冷却水滴の結晶化温度と、結晶化機構に関して研究した。体積変化は油中水滴型のエマルジョンを用いて測定し、水滴は38.3℃から凍結が開始され40.8℃ですべての水滴が凍結した。結晶化時間は直径0.6mmの水滴からの弾性波を圧電センサーで受信し、キャリア周期54nsの自由減衰波形が観測された。 さらに、凍結時の潜熱放出について興味ある結果が得られた。過冷却水においても液体状態から固体へ相転移するとき体積の膨張と潜熱の放出が見られるが、潜熱の放出は10度にものぼる温度上昇を伴い、その結果出来たばかりの氷が融解する。この断熱的瞬時凍結に伴う不安定性の繰り返しが高速温度計で観測された。 これらの実験によって、過冷却水滴の時間的振舞いへの知見を深まると同時に氷温効果の原理的解明に一歩近づけるものと期待される。
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