本研究の目的は、細胞の環境関知能力を積極的に利用し、工学的手法によって、その情報を収集・処理する生物マイクロセンサーの開発にある。はじめにセンサーモデル細胞として、酵母菌を用いた。酵母菌のミトコンドリアを電荷依存性の蛍光色素(ロ-ダミン123:RH)で染色し、外部から励起光を照射して、蛍光を顕微鏡下で検出した。ミトコンドリアの膜電位が上昇するとRHは細胞内に多く取り込まれて、蛍光強度が増加する。個々の細胞のばらつきがあるため、まず50個の細胞の平均蛍光強度を求めて評価した。 環境因子として、酵母菌懸濁液中の酸素濃度を増減させると、それにしたがって蛍光強度の増減が見られた。したがって、直径5μmの酸素濃度センサーが実現できたことになる。次に懸濁液中に水銀イオン、カドミウムイオンなど重金属イオンを加えた。これら金属イオンの存在によって蛍光が低下し、その度合いはイオン濃度が10μMから1mMの範囲で、濃度に比例することがわかった。 次にレーザー光圧力による単一細胞の捕捉を試みた。1064nmの波長のレーザー光によって細胞の位置を、細胞を破壊することなく制御できることを確かめた。しかし液流があると流圧のため細胞が捕捉しきれなくなり、懸濁液中の細胞を1つ捕捉して水銀イオン液流を検出する試みは不成功に終わった。そこで、内径25μmのシリカキャピラリーチューブ内壁に酵母菌を付着させ、キャピラリーに水銀イオン液を導通させた場合のRH蛍光強度の変化を測定した。その結果、キャピラリー内の水銀濃度によって単一細胞の蛍光が増減することが確認でき、単一細胞センサーに関する所期の目的の1つを達成した。
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