細胞の環境関知能力を利用し、工学的手法によってその情報を収集・処理する生物マイクロセンサーの開発を目的としている。はじめにセンサー細胞として、遊泳能力があるゾウリ虫を用いた。細胞のミトコンドリアを電荷依存性の蛍光色素(ローダミン123:RH)で染色し、励起光を照射して蛍光を顕微鏡下で検出した。ミトコンドリアの膜電位が上昇するとRHは細胞内に多く取り込まれて、蛍光強度が増加する。また環境変化に応じて遊泳パターンを変化させる。細胞のばらつきがあるため、複数個の細胞の平均値を求めて評価した。環境因子として、酵母菌懸濁液中のpH、重金属、酸素濃度を変化させた。それにしたがって蛍光強度の増減が見られた。また、遊泳状態は特有のパターンを示した。ゾウリ虫について遊泳速度変化と蛍光強度変化を組み合わせた指標を作ると重金属の種類を区別できることがわかった。 次に酵母菌をセンサー細胞として用い、環境中の重金属などの定量が可能かどうかを検証した。その結果酸素濃度と蛍光強度とのあいだに比例関係があることがわかった。さらに懸濁液中に水銀イオン、カドミウムイオンを加えた。これら金属イオンの存在によって蛍光が低下し、その度合いはイオン濃度が10μMから1mMの範囲で、濃度に比例することがわかった。酵母菌の直径は約5μmであり、ミクロな酸素濃度センサーが実現できたことになる。 最後に顕微吸光スペクトル分析装置を試作して、酵素染色されたゾウリ虫の細胞内酵素活性分布を求めた。細胞内で酵素活性が分布する様子がとらえられた。これまで溶液で論じられていた酵素反応速度定数が、細胞を用いた生体反応系でも求まることを示した。これは細胞センサーを定量分析へ用いるための基礎となる。
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