テトラ・シソシアネート・シランを用いたシリコンの液相堆積の予備的検討の段階において、分解時に発生する副生成物のアンモニアが分解特性を大きく変化させることが判った。さらに、このアンモニアは、類似した原料であるテトラ・エトキシ・シランの加水分解と、生じたシラノールの脱水縮合とを加速することがわかった。そして、アンモニアと蟻酸の水溶液にテトラ・エトキシ・シランを導入すると、良質の二酸化シリコン膜が析出するできることも判明した。この液相堆積法ではさまざまな強さの酸化剤が利用できるので、エトキシ基の一部をメチル基に置き換えた原料モノメチル・トリエトキシ・シランを原料に用いれば、メチル基を含有した低誘電率酸化膜を室温堆積できることに気づいた。この低誘電率膜は、ULSIの最近の急激な極微細化に伴う配線間のCR遅延が問題を軽減する決め手となる可能性を秘めており、この分野での基礎的研究が重要になっている今日、この酸化膜堆積法は萌芽研究として十分に意味があると判断した。 様々な堆積条件とアニール条件における有機含有酸化膜の電気的特性を調べた。その結果、アンモニア濃度が1.5mol/l、蟻酸濃度が1mol/l、が最適堆積条件であること、アニールなしでも絶縁性を示す膜が得られることが判った。さらに、500度の真空アニールによって誘電率が2.6(従来の酸化膜の約65%)という極めて低い酸化膜を実現できた。 液相堆積には、蒸気圧が低い原料も利用できるという特徴があることに注目して、高次のアルキル基を含む原料を用いて堆積し、それらの膜質を評価した。その結果、メチル基が最も優れていることを確認するとともに、メチル基膜に残された欠点(酸化耐性に欠ける、加工性に劣る)を克服できる可能性を持った新しい有機シリカ膜の構造(アルキレン基含有シリカ膜)を発案した。この新構造膜の堆積原料としてビス・トリアルコキシ・アルキレンを探し出した。この原料の蒸気圧が極めて低いことから、液相堆積法を応用すれば、このアルキレン基含有シリカ膜が堆積可能と判断して、実際にも成膜に成功した。膜質の解明は今後の課題である。
|