視覚障害者にとって、環境をナヴィゲート(目的地まで移動する)するために利用できる情報は、音響の情報、接触の情報、そして大気中に拡散した化学物質(匂いとして知覚される)の情報である。視覚障害者に都市の駅空間において広大な移動の経路を提供している駅の地下通路は、音と接触と匂いの「キメ」で構成された環境である。 本研究では、視覚障害者がこの地下通路を触覚的な地図を参照することなく、目的の場所まで移動しようとするときにどのような音と接触と匂いが利用されているのかを明らかにすることを課題とした。 二つの事例を分析した。最初の事例は片眼に光覚をもつ弱視の女性(50歳台)であった。彼女の地下街での歩行を観察すると、それが直線的であることが特徴であった。ナヴィゲーションへの参加観察の結果、この直線的な保行は、地下街天井の蛍光管の直線的な配列によって制御されていることが示された。 第二の事例は光覚をもたない重度の視覚障害者の女性(20歳台)であった。大規模地下通路を持つ都内の駅をフィールドにして、壁までの距離、壁の切れ目が彼女によってどのように発見されているのかについて詳細に検討された。壁の切れ目付近の音響学的な変化が壁際の知覚に利用されていることが示唆された。
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