平成9年度の作業によって得られた成果は以下の通りである。 (1)イタリアのタルクィニア市近郊のカッツァネッロの発掘調査で明らかになった三葉形アプシスを持つ建物の建築データが収集できた。壁はオプス・ウィッタトゥムで造られ、壁厚は約50cmであった。この三葉形部分の正確な3次元的な測量データも得ることができた。 (2)国内およびローマのドイツ考古学研究所の文献資料から三葉形アプシスをもつ建物のリストの作成を行うことができた。リスト作成の結果、古代ローマ時代において、三葉形アプシスを持つ建物はヴィッラおよび宮殿建築に約15例、浴場建築に5例ほど見いだせた。 (3)上記のリストにおいては、その規模、構造、用途、配置、建設年代、他の部屋との繋がりなどの調査項目に従ってカード式のデータべ-ス化を図った。 (4)ヴィッラおよび宮殿建築に見られる三葉形アプシスを持つ建物は中庭に巡る回廊と密接に繋がり、紀元後3世紀末から4世紀に数多く見られる。これらはトリクリニウムとして使われていることが多く、屋根が架けられている。これに対して屋根の架からない中庭であり、完全な三葉形をなさない例が紀元後2世紀にすでに見られる。 (5)浴場建築に用いられた三葉形アプシスの例は予想に反してきわめて少なく、浴場の中では地較的小さな部屋に見いだせる。また、これらは北アフリカに多く見られる。 (6)今後の課題としてヴィッラ、宮殿、浴場以外の建物においても三葉形アプシスを用いた例を拾いあげることと、三葉形アプシスを建物に用いる意味を考察し、タルクイニア遺跡の三葉形アプシスの建築史上での位置づけを行いたい。
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