多結晶薄膜などの試料においては、組織(あるいは配向)の解析が物性解明にとって非常に重要である。しかし従来のθ-2θ対称スキャン法においては、試料面に対して垂直方向の散乱ベクトルしか関与しないために、一軸方向の情報しか得ることができなかった。本研究で開発した多重回折データを用いる方法とは、以下のようなものである。固定入射角において入射させたX線を試料表面で回折させた後、非対称2θスキャン法を用いて広い角度範囲の回折データを測定する。この測定をある範囲にわたる複数の固定入射角において測定することにより、試料面に対して垂直方向とは異なる方向の散乱ベクトルが関与する回折データの組み合わせを得ることができる。これらを多重回折データとした時に、これら全てのデータを同時に解析することによって、組織の立体的な解析を高い精度で行うことを可能にする。本研究では、1)多重データ解析モデルの製作、2)解析用ソフトウェアの開発、3)実験装置の製作、および4)セラミックス薄膜材料への応用と解析手法の試験、の4段階から構成され、これらを2年間で行った。組織の方向に依存した分布関数としては、対称性の制限を取り込んだ調和展開関数を用いた。多結晶薄膜Bi_3Fe_5O_<12>ガーネットの結晶構造解析にこの方法を適用し、リートベルト法に基いた解析用ソフトウェアを用いて結晶構造および組織のパラメータの精密化を行った結果、所定の結果を得ることができた。
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