研究概要 |
反応活性度の高いアークプラズマを用いることにより,グラファイトと窒素を原料として,アモルファス窒化炭素(a-C:N)の薄膜を作製し,構造,化学結合状態,機械的・電気的・光学的特性など基本的性質を明らかにするとともに,新しい超高硬度材料,光学材料としての応用の可能性を検討した.a-C:N薄膜の作製には,開発したシールド型アークイオンプレーティング法を用いた.窒素圧力,基板バイアス電圧を変化させ,物性への影響を調査した.また,反応ガス中にアルゴンを添加し,アルゴンイオンによるイオン衝撃効果についても検討した.作製膜の組成をX線光電子分光法(XPS)により測定し,化学結合状態をXPS,赤外吸収分光法及びラマン分光法を併用して評価した.透過型電子顕微鏡により微小構造観察を行い,ダイナミック超微小硬度計を用いて硬度を測定した.残留応力を成膜後の基板変形より求めた. 作製膜中のN/C原子数比は,0.13〜0.51の範囲で制御できた.-300V付近の適切な負バイアス印加によりa-C:N薄膜の硬度は上昇し,最大でシリコン基板の約2倍(ヌープ硬度換算で約2800)となった.a-C:N薄膜は,ダイヤモンドライクカーボン(DLC)の構造に類似しているが,DLCより熱的安定性に優れていた.高硬度を示したa-C:N膜中には,カーボンネットワーク中にC-Nの3次元構造が含まれ,微結晶のβ-C_3N_4が生成していることが,電子線回析により明らかとなった.硬度の上昇は,カーボンのsp3成分の増加と,β-C_3N_4微結晶の生成によっていると考えられる.反応ガス中へのアルゴンガス添加により,a-C:N薄膜の硬度はさらに上昇し,最大でシリコン基板の約4倍,ヌープ硬度換算で約5600を得た.このことから,a-C:Nがヌープ硬度5000を越える超硬質膜となることが判明した.本研究によりa-C:N膜が,切削工具,金型,磁気ヘッド,ハードディスクなどへのスーパーハードコーティング材料として工業的に応用が可能であることが示された.
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