高圧下における結晶を直接肉眼観察可能な高圧容器および結晶成長を記録できる実体顕微鏡とCCDカメラを組み合わせた装置を用いて、最高3千気圧(300MPa)までの圧力領域における分子結晶の成長速度を測定し、成長速度の圧力依存性を詳細に調べた。物質としては、ベンゼン、トリラウリン、トリカプリンを用いた。結晶成長速度の理論的解析を行うために、高圧下での融点の測定、粘性率、液密度の測定も行った。融点測定は結晶成長速度を測定したのと同一の装置を用い、粘性率は落針法粘性計、密度はピエゾメータ法により実測した。トリラウリンとトリカプリンの脂質分子については、圧力が高くなるにつれて成長速度は減少した。また過冷却度によって減少割合は異なることが分かった。結晶成長速度の圧力依存性より、脂質分子の結晶成長機構は物質移動律速であることが確認された。粘性率、液密度および自己拡散係数を用いて、物質移動律速の場合に成長速度に関する理論式より予測される圧力依存性と実測データを比較したところ、理論式は測定結果よりも小さな圧力依存性しか示さないことが分かった。また、ベンゼンにおいては、一定の過冷却度における結晶成長速度と圧力の関係を調べたところ、成長速度が最少になる圧力が存在することが分かった。このような圧力依存性を説明できる理論は見当たらないため、今後はこの実験結果を説明するための物性測定を行う必要がある。
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