研究概要 |
これまで生体系炭酸固定の研究には主として放射性物質である炭素14が追跡物質として使われてきた。炭素14は放射性の寿命として5730年(半減期)と長く、人体に有害で、しかも高価である。その扱いはガスの場合、四方八方に飛散しやすいため大変難しく、特別なRI施設が必要である。これに対して、本研究では無害で、自然界に100%の存在比の^1H-,^<31>Pと約1.1%の存在比の^<13>Cに注目し、これをCO_2固定の研究に用いて、さらに核磁気共鳴(NMR)という高分解能・高感度の分析装置との組み合わせによりCO_2固定反応回路を原子レベルで調べることを試みた。 今年度は、まず、二酸化炭素固定の鍵酵素であるRuBisCo(ルビスコ)の単離・精製方法の検討から着手した。次に、単離されたRuBisCoにNaHCO_3(^<13>C-NMR測定の場合、^<13>Cで標識されたNaH^<13>CO_3)と基質1,5リブロース二リン酸を投与することにより反応を開始させた。二酸化炭素がRuBisCoによって取り込まれていく様子を^1H-,^<31>P-,^<13>C-NMRを用いてリアルタイムで追跡するに成功した。これと同時に反応生成物を同定すると共に定量的に評価することができた。光合成細菌と高等植物から単離された3種類のルビスコについて、フォーオーバー現象が観測され、得られたカルボキシラーゼ活性はこれまで報告されたものとよく一致していることがわかった。軽水中での^1H-NMRの測定は高感度のため、速い反応に最も適している一方、^<31>P-NMRでは反応途中でも、反応率を見積もることが可能で、^<13>C-NMRでは取り込まれる炭素の位置が明確にわかるなど、それぞれに特徴があることを判明した。用途に応じて、これらの方法を使い分けることによって、極めて汎用性の高い測定法であるといえる。今まで得られた成果は、近く学術雑誌に公表されることになっている(Analytical Biochemistry,1998 in press)。
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