研究概要 |
本研究は、金(111)面上に形成されたチオール誘導体からなる自己組織膜の界面化学的性質をフォスフォリパーゼなど界面で活性化される相界面型酵素を利用して改質すること、表面微細加工の新しい方法を開拓する事を目的とする。 まず、極性頭部にコリンを有する自己組織膜を作るために、炭化水素鎖の末端にSH基を有するリン脂質1,2-Bis(8-mercaptoundecanoyl)-sn-glycero-3-phosphocholine(diC_<11>SH-PC)を合成した。これをもちいて自己組織膜を構築しその基礎的性質を検討した。 金(111)面に富んだ金基板をdiC_<11>SH-PCの0.5mMエタノール溶液に16時間以上浸漬し、diC_<11>SH-PC単分子膜を形成させた。この単分子膜は、0.5MKOH中で-1.05Vにピーク電位を持つ単一の還元的脱離ピークを示す。掃引速度20mV/sでFWHM20mVの鋭いピークは、吸着したdiC_<11>SH-PC分子間に強い引力相互作用が働いている事を示す。走査トンネル顕微鏡では、diC_<11>SH-PC分子像は確認できなかったが、チオール自己組織膜に特有の不規則なピットが観察され、diC_<11>SH-PCが密な単分子膜を作っている事が示唆された。還元的脱離のピーク面積から充電電流の寄与を無視して求めたdiC_<11>SH-PC一分子当りの占有面積は0.21nm^2で、充電電流の寄与があるとしても、稠密な単分子膜が形成されているものと思われる。 還元的脱離後に電極電位を再酸化される電位に戻しても、再酸化の電流は観察されなかった。これは、長鎖のアルカンチオール膜とは異なり、diC_<11>SH-PCの極性部分の親水性が高く、脱着後速やかに溶液中に溶け込む事を示している。 このdiC_<11>SH-PC単分子膜にフォスフォリバーゼD(PLD)を作用させても、膜を横切る電気二重層容量に顕著な変化は認められなかった。これは、diC_<11>SH-PCがPLDが作用し得ないほど密な単分子膜になっているためであると考えられる。diC_<11>SH-PCが、粗に吸着した単分子膜の作成を検討中である。
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