研究概要 |
昨年度は、まず、極性頭部にコリンを有する自己組織膜を作るために、炭化水素鎖の末端にSH基を有するリン脂質1,2-Bis(8-mercaptoundecanoyl)-sn-glycero-3-phosphocholine(diC_<11>SH-PC)を合成し、Au(111)上におけるその自己組織膜の基礎的性質を検討した。しかし、このdiC_<11>SH-PC単分子膜にフォスフォリパーゼD(PLD)を作用させても、二重層容量に顕著な変化は認められなかった。これは、diC_<11>SH-PCがPLDが作用し得ないほど密な単分子膜になっているためであると考えられる。そこで今年度は、まずhexanethiol(HT)とdiC_<11>SH-PCの混合膜を作ることによりdiC_<11>SH-PCが、粗に吸着した単分子膜の作成を試みた。HTとdiC_<11>SH-PC混合膜は、混合比の値によらず常に一本の還元的脱離のピークを示し、両者が少なくともメソスケール以上では均一に混合していることが明らかとなった。一方、mercaptohexanoic acid(MHA)あるいはmercaptopropinonic acid(MPA)とdiC_<11>SH-PCとの混合膜では二本の還元的脱離ピークが観察されたことから、これらの膜では、二成分に相分離している。これは、diC_<11>SH-PCは末端にアセチルコリンを持つにも関わらず、相対的に長い2本の炭化水素鎖のために、親水性の大きなMPAやMHAとは混じりにくいことを示唆する。このことは、diC_<11>SH-PCがより疎水的なMHAとは均一に混合することとも符合する。また、MPAとundecanethiol相分離膜のMPA部分をdiC_<11>SH-PCに選択的に置換できることも証明し得た。しかし、これらの膜にPLDあるいはフォスフォリパーゼC(PLC)を作用させても、単分子膜の容量に認められる変化はなかった。一方、はじめに金表面にHTの単分子膜を形成させ、それにdiC_<11>SH-PCのベシクルを融合させることにより得た膜では、PLDの作用により膜の容量変化が確認された。これは、基質の分散状態が界面型酵素反応に決定的に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
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