これまで多くの有機分子のラジカルイオンの発光測定が試みられたが、その発光はこれまで観測例はほとんどないほど困難な測定である。本研究ではこのラジカルイオンの発光測定を行い、ラジカルイオン光励起状態の電子状態、構造、過渡的現象などを明らかにすることを目的とする。阪大産研のコバルト60γ線照射によって77Kマトリックス中にラジカルイオンを生成し、その発光測定を行った。具体的には、n-ブチルクロリドまたは2-メチルテトラヒドロフランを溶媒とする有機分子を77Kマトリックス中でγ線照射を行い、それぞれ有機分子のラジカルカチオンおよびラジカルアニオンが生成させた。77Kマトリックス中ではラジカルイオンは安定であり、高強度のキセノンランプ光の照射によってラジカルイオン光励起状態からの発光測定を300nm〜数μmの波長領域で行った。ラジカルイオンは77Kマトリックス中でも反応する場合があり、高強度のキセノンランプ光の照射においては、ラジカルイオンの分解によって生成したフラグメントからの発光も起こり得るので十分に注意して実験を行った。本研究では、ラジカルイオンのうち、ラジカルカチオンのスピンと正電荷が分離した分離型ラジカルカチオンの発光測定に成功した。フリーラジカルの発光収率は高いことが知られており、そこで、ラジカルカチオンのスピンと正電荷が分離した分離型ラジカルカチオンの場合の発光測定の可能性が高いと予想されることからである。実際に、ラジカル部位の発光とカチオン部位の発光とを独立に観測することに成功した。
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