生理温度に近い34℃に体積相転移を持つ、N-イソプロピルアクリルアミド(NIPA)ゲルは、生体に対する毒性は持た無いので、細胞培養基盤の材料として利用できるが、そのままでは細胞接着性の点で不十分であることが明らかになった。そこで本年度は、このゲルに良好な細胞接着性を持たせること、およびゲルの堅さ(架橋密度)と細胞形状との関係を明らかにすること、の2点を中心として実験を行った。 (1) 良好な細胞接着性を持つNIPAゲルの開発:NIPA網目にコラーゲン(Co)又はゼラチン(Ge)を絡み合わせる方法と、逆にCo又はGeの網目にNIPAを導入する方法の2つを試みた。前者については、Co又はGe溶液中でNIPAを架橋する方法と、架橋したNIPA網目に後からCo又はGeを加える方法を共に行ったが、両者とも良好な細胞接着性を持つゲルが得られた。両方法を比較すると、基盤の透明性と調整の容易さの点で後者の方法が優れていることが分かった。 (2) ゲル基盤の堅さと培養細胞の形状との関係:架橋密度を変化させることにより、上記の関係を調べた。標準的なNIPAゲルは、NIPA700mMに対して架橋材BIS8.6mMであるが、この組成の場合には、細胞形状はシャーレ上で培養した場合とほぼ同じ多極性平板状であった。架橋密度を少なくするにつれて細胞形状はコラーゲンゲル上で培養した場合と同じ紡錘形に近づいた。BIS10mM付近からその効果が現れる。一方、ゼラチンに永久架橋を入れたゲルでも、同様な関係を調べた。その結果、架橋密度を減少させるに伴って、細胞は紡錘形になる点はNIPA網目と同様であるが、それと同時に細胞が直線上に連なって増殖するという、NIPAには見られない現象が見られた。 以上の結果の分子的なメカニズムを調べると共に、温度変化に伴うゲルの膨潤・収縮を利用して細胞に力を印加する事が今後の課題である。
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