1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸(ACC)は植物ホルモン・エチレンの前駆体で、三員環を持つアミノ酸である。植物では三員環の分解によってエチレンを発生する。微生物もエチレンを発生するが、2-オキソグルタル酸またはメチオニンからACCを経ずに生成することが知られている。一方、土壌から分離した細菌にはACCを2-オキソ酪酸とアンモニアに分解するACCデアミナーゼを持つものがある。この遺伝子を導入して貯蔵性の良いトマトを作る成功例が発表され、同様の細菌が多数分離された。更に酵母や糸状菌にもACCデアミナーゼが発見され、糸状菌Penicillium citrinumにはACC合成酵素、ACCシンターゼの活性も発見された。ACCが微生物によって合成されるという報告は他になく、ACCの微生物における存在意義を明らかにすることを目標として、これら真核微生物のACC代謝を分子レベルで解明するための実験を行った。 1.酵母Hansenula saturnusのACCデアミナーゼは細菌の酵素に比較して、ACCに対する親和性が幾分低いが、特異性は高い酵素であった。精製酵素はN末端がアセチル基で修飾され、アミノ酸341残基からなる。その配列の約60%が細菌酵素と同一であった。 2.糸状菌P.citrinumのACCデアミナーゼは酵母の酵素より更にACCに対する親和性が低く、特異性は更に高い酵素であった。精製酵素のアミノ酸配列を約51%分析し、その約62%は細菌の酵素と同一であり、約53%が酵母の酵素と同一であった。 3.P.citrinumのACCシンターゼは植物の酵素に比較して、S-アデノシル-L-メチオニンに対する特異性は高いが、親和性も反応性も低かった。酵素は430アミノ酸残基からなり、その約25%が植物酵素と同一であった。P.citrinumは生育の初期にACCを培養液に放出し、生育が最大に達した後、培養液ACCは消失し、菌体内ACCの蓄積量が最大となり、その後、減少した。
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