本研究は細胞内カルシウム依存性のプロテアーゼであるカルパインを用いて、その活性を制御することによって動物細胞付着性を改変しうる事を目指して基本的知見の蓄積を行わんとするものである。本年度はまず、筋芽細胞をモデルとして、付着性と浮遊性の制御に関する基礎的研究を行った。カルパインは付着性細胞においては、さまざまな付着に関与する蛋白の切断に関わっているとされるいくつかの報告(フィブロネクチンなど)があるが、付着性との関わりについては未知である。申請者は、カルパインの特異的な内在性阻害蛋白質であるカルパスタチンの遺伝子を筋芽細胞に強制的に導入し、これを安定に発現する細胞株を得ることを試みた。このような細胞株を得ることによって、カルパインを完全に細胞内において作用させない付着性細胞が生み出せることになるので、その付着能力を検定しようと考えたからである。その結果3株の安定な遺伝子導入株を得ることに成功した。それぞれの付着性に及ぼす効果については、まだ定量的な解析を行っていないが、非導入株(親株)と比較して明確な差が見られなかった。この理由について、カルパスタチンとカルパインの細胞内局在が異なり、有効に働かなかったか、あるいはまだカルパインの分解を受けない付着に関わる蛋白質の存在も考えられる。次年度以降は、この点を考慮し、他の付着性細胞株、あるいはカルパインの局在性を考慮した遺伝子導入株の樹立を行う予定である。しかし、今回得た細胞株については、筋芽細胞の細胞分化に伴う細胞融合にカルパインが必要とされるという仮説があり、その実証のためにも有用であると考えている。
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