本研究は細胞内カルシウム依存性のプロテアーゼであるカルパインを用いて、その活性を制御することによって動物細胞付着性を改変しうる事を目指して、基本的知見の蓄積を行わんとするものである。昨年度から続いて、筋芽細胞をモデル細胞として、付着性と浮遊性の制御に関する基礎的研究を行った。カルパインは付着性細胞においては、さまざまな付着に関与する蛋白の切断に関わっているが、付着性との関連については未知である。申請者は、カルパインの特異的な内在性阻害蛋白質であるカルパスタチンの遺伝子を筋芽細胞に強制的に導入し、これを安定に発現する細胞株を得ることを試み発現株を得た。このような細胞株ではカルパインを完全に細胞内において作用させない付着性細胞が生み出せることになると考えたからである。しかし付着性に及ぼす効果については、非導入株(親株)と比較して明確な差が見られなかった。この理由について、カルパスタチンとカルパインの細胞内局在が異なり、有効に働かなかったか、あるいはまだカルパインの分解を受けない付着に関わる蛋白質の存在も考えられる。そこで、今年度は他の付着性細胞株である線維芽細胞L929を用いたカルパスタチン安定発現株を樹立した。その結果、L929細胞株においてカルパスタチンの活性量がカルパイン阻害剤、カルシウム流入促進剤の添加で変化することを確認した。現在付着性が親株と異なるかどうかを定量的に解析している。またカルパインの局在性を考慮した遺伝子導入株の樹立を試みている。
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