細胞内で合成された高分子物質が、細胞外に分泌される過程に関しては特殊な分子構造が提出されているが、細胞が高分子物質を取り込む機構は殆ど不明である。微生物細胞が高分子物質を資化する場合には、先ず、菌体外酵素によって高分子物質を低分子化し、生じた低分子化物を取り込むのが一般的である。しかし、本研究で扱うスフィンゴモナス属細菌(A1株)では、低分子化酵素は細胞質に存在し菌体外に分泌されない。また、A1株は、微生物学の歴史の中で初めて見い出した細胞表層に特殊な体腔(巨大な穴)を有する細菌であり、その体腔に高分子物質を濃縮する。従って、体腔を介した極めて斬新な高分子物質取り込み機構の存在が予想される。本研究では、微生物細胞が高分子物質(多糖アルギン酸)を細胞内に取り込む分子機構を明らかにすることを目的としている。A1株から変異誘導AL-L株は、高分子アルギン酸(26kDa)は資化できないが、低分子化したアルギン酸(1kDa未満)は資化可能であることから、AL-L株は細胞内への取り込みに変異を有していると考えられた。A1株の遺伝子ライブラリーを構築してAL-L株に導入し、高分子アルギン酸資化性回復株AL-LCを取得した。AL-LC株には9kbのDNA断片がクローニングされており、その全一次構造を決定した結果、取り込み遺伝子群が見い出された。本遺伝子群は、高分子物質取り込みの特異的膜トランスポーター[透過酵素領域(0.6kb)、ATPase領域(1.1kb)]をコードしており、微生物の高分子物質取り込み系の存在を初めて明らかにした。以上の結果より、高分子アルギン酸は、先ず、体腔に濃縮された後、トランスポーターによって細胞内に取り込まれ、細胞内で低分子化及び資化が行われることが判明した。これは、微生物細胞の高分子利用機構の新規発見である。現在、透過系タンパク質の活性・構造相関の解析及び体腔形成の情報伝達系を解析している。
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