研究概要 |
低温酵素の低温(0〜5℃)における触媒機能発現機構を、高次構造との関連で解明する研究の一環として、好冷菌(Shewanella sp.)が産生するフォスファターゼに着目して、その分離精製を行い、さらに、精製酵素について酵素化学的及び理化学的諸性質を明らかにした。 1.フォスファターゼIの分離精製:菌体(2Kg)を磨砕して得た酵素抽出液を、硫酸アンモニウム40-80%飽和で粗分画した後、順次、DEAE-cellulose、Butyl-cellulofine、Sephacryl S-100、Mono-Qを用いたカラムクロマトグラフィーに供し、Native-PAGE及びSDS-PAGEで均一な酵素標品0.26mg(比活性:58.1)を活性収率1.8%で分離した。 2.酵素化学的特性:精製酵素は、至適pH6.0、至適温度30℃を示し、また、pH6〜8、温度0〜20℃の範囲で安定であったが、30℃以上で失活する特性を示した。本酵素は、金属イオンを要求し、Mg^<2+>、Ca^<2+>及びCo^<2+>により活性が、それぞれ、6.1倍、7.1倍、4.8倍に高められた。また、30℃と5℃におけるKm値は、0.95mM、0.77mMであり、低温の方が高い基質親和性を示した。Vmaxは、0.50nmo1/(30℃)、0.17nmo1/min(5℃)を示し、5℃における最大活性は、30℃(至適温度)の34%であった。K_<cat>は、6.7X10^3min^<-1>(30℃)と2.3×10^3m:n^<-1>(5℃)であった。 3.理化学的特性:MALDI-TOF mass spectrometry及びアミノ酸組成分析で測定された、分子量は、38,300であった。また、精密アミノ酸組成分析により、この酵素は、高次構造の安定化因子であるプロリン残基の含量が低く、また、分子内ジスルフィド結合を有していないことが明らかになった。これらの特性が、この酵素の中温域における不安定性と低温域における高い触媒活性に寄与しているものと推測された。
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