研究概要 |
タイの塩土から分離した高度耐塩性細菌、Halomonas elongataは食塩濃度25%でも旺盛に生育し、アミノ酸誘導体であるエクトインを適合溶質として高濃度蓄積し、浸透圧を保っている。エクトインはaspartate β-semialdehydeからectA,ectB,ectC遺伝子がコードする3酵素により合成される。そこで遺伝子導入によりエクトインを蓄積する耐塩性植物の分子育種を目的とする。 昨年度にCaMV35Sプロモーター支配下に置いたectA,ectB,ectC3遺伝子をタンデムに並べ、Km^rとHyg^r遺伝子を両端に置いたベクターを構築しタバコに導入した。カナマイシシとハイグロマイシン耐性で選抜した再生タバコ植物体を約20個体について、遺伝子導入を確認した。ノザン解析により3遺伝子が発現している個体を選び、耐塩性試験を行ったが、耐塩性は僅かしか上昇していなかった。しかし、野生型タバコが増殖できない600mMマンニトール存在下でも遺伝子導入タバコは旺盛な生育を示し、浸透圧耐性上昇が確認された。これは耐塩性賦与には浸透圧と有害なNa^+イオンの両者を分けて考慮しなければならないことを示唆する。 そこで、植物のNa^+,K^+イオン輸送体の遺伝子をクローニングした。一つはコムギから得られた高親和性Na^+,K^+イオン輸送タンパク質のイネホモログのcDNAを得た。もう一つは酵母でNa^+イオン排出作用が知られているATPase遺伝子であるENA1導入タバコ培養細胞は野生型細胞が生育できないNa^+イオンのアナログであるLi^+イオン、120mM存在下でも生育した。今後、エクトイン蓄積、Na^+イオン取り込み、排出系を総合的に操作すれば実用耐塩性植物の育種が可能であるとの示唆を得た。
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