著者は昨年度までに消化管モデル細胞としてのInt-407細胞へ対して高い付着性を示す、Lactobacillus acidophilusを選抜することに成功し、細胞への付着には菌体表層のレクチン様成分が寄与していることを示唆してきた。ヒトの腸内菌叢を構成している菌種を考えた場合、Lactobacillusの中では、ロイテリー(Lactobacilus reuteri)菌が優勢である。著者はすでにロイテリー菌の中にもレクチン保有株が存在していることも示唆している。そこで本年度はロイテリー菌の糖鎖認識能と細胞付着性の関連性を明らかにすることを目的とした。 供試菌株の糖鎖認識能を検討するにあたって、まず12種類の糖脂質への結合性を検討した。その結果、複数の株でアシアロGM1糖脂質に結合する菌株が見いだされた。最も高い結合性を示す菌株を用いて以下の結果を得た。すなわち、(1)リゾアシアロGMl、過ヨウ素酸処理した糖脂質への結合試験結果から、確実に糖鎖に結合し、レクチン様の性質を有していること、(2)糖脂質糖鎖への結合性には菌体表層の約65kDaタンパク質が関与していること、(3)本タンパク質の糖脂質への結合は、熱安定であり、また分子内S-S結合が関与していること、(4)モデル細胞であるCaco-2およびInt-407細胞へ高い付着性を示し、またレセプターとして中性糖脂質が関与していること、以上のことが明らかとなった。ロイテリー菌が認識する糖鎖とと同一の糖鎖を認識する病原微生物はすでに見いだされており、そのような病原微生物に対して、本菌株はレセプター分子への付着の競合によって感染予防効果を示すことが期待された。
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