東京大学愛知演習林内白坂流域南谷上流部の南斜面の広葉樹林では平成7年度から自記テンシオメ-ラや超音波風速計、赤外線水蒸気変動計、微気象観測機器、改良型幹熱収支法などを用いて詳細な斜面水文観測を実施中であったが、平成9年度の本研究では同流域内の北斜面に新たに試験地を設定し自記テンシオメータを設置して森林水文観測を開始した。従来の短期流出を照準においた研究では谷頭部の土壌水分変動に観測の重点がおかれていたが、長期流出過程の把握を目的とする本研究では谷部・山腹部・尾根部の計20地点の各4深度にテンシオメータを設置し10分インターバルで自記記録した。 解析の結果、降雨直後から日数が経つに従い、尾根部から山腹部へと土壌水分が減少していき、次第に斜面が湿潤域と乾燥域に二分化されていく様子が観察された。斜面各部位での土壌水分貯留量解析と不飽和Darcy則に基づくフラックス解析によると、斜面各部位の基底流出形成への寄与の実態は、斜面内土壌水分の二分化に対応していることが確認された。これらの斜面内土壌水分の動態は田中(1990)の流出モデルで想定されていた伝達エリア概念を実証するものであった。田中(1990)の流出モデルのパラメータを無次元化し、本研究の観測結果に適用した。長期基底流出の形成に対する山腹部の役割は谷部とは異なり、植生等による水収支的な影響に鋭敏な反応を示すことが示唆された。 そこで、平成7年度から開発中であったレーザ光切断法に基づく森林構造・林冠形状測定システムに、新たに高感度カメラを導入しこの手法の完成度を高め、水文観測斜面の森林構造・林冠形状の実測データに基づいた水文動態や流出との関連の解析を可能とした。
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