田上らは海洋に細菌の外膜のチャンネルタンパクであるポリンが溶存態有機物として広く分布することを明らかにした。本研究ではポリンが残存してくるメカニズムを明らかにするため、以下の研究を行なった。 1. 蛍光抗体法によってポリン抗体あるいはP seudomonas aeruginosaに反応ずる菌を調べた。この結果、いずれの抗体にも反応する菌が沿岸から外洋にかけてかなり一般的に分布することが明らかになった。 2. 実験室にてP.aeruginosaに塩分ストレスを与え、その生残をいくつかの方法で調べた。この結果、この菌は海水あるいはその半分程度の塩分環境下でも少なくとも数週間にわたって生残することがわかった。つまり河川中のP.aeruginosaは海洋に流入した後にも拡散し、ポリンの起源となっている可能性がある。 3. 海洋細菌、Vibrio alginolylicusの菌体から膜中のタンパクフラクション、細胞質中のタンパクフラクションを調製し、その分解実験を行った。この結果、膜中のタンパクは細胞質中のそれよりも遅く分解することがわかり、膜成分と会合状態にあるタンパクは一般に分解に時間がかかることが明らかになった。 以上の結果から、溶存態ポリンの起源となる細菌が確かに海洋中に分布し、何らかの死滅過程を経て溶存化する可能性が示された。現在、ウイルスあるいは原生動物の捕食など、異なる死滅過程を経た菌体がどのように変性、残存していくかを実験的に観察、定量している。
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