緑藻ハネモBryopsis plumosaは単細胞性の多核管状体を体制とする雌雄異株の海藻で、特異な再生機能を有することが知られている。すなわち、海水中に絞り出された細胞内容物が自然凝集し、細胞膜を形成してプロトプラスト化し、細胞壁を合成後、成熟体となる。この特異な生物現象の科学的側面に関する情報は得られていない。そこで、本年度研究では、プロトプラスト形成誘導物質を固定することを目的とし、以下の結果を得た。 細胞内容物を直ちに遠心分離し、細胞内液とオルガネラ画分に分別した。まず、十分に洗浄したオルガネラ懸濁液はそのままでは凝集しないが、これに予め分離した細胞内液を再添加すると凝集し、やがてプロトプラストを形成することを認めた。この結果から、細胞内液にプロトプラスト形成誘導物質が存在することが実証された。次に、細胞内液のクロロプラスト凝集能を指標として、同誘導物質の性状を予備的に調べた。その結果、同物質は非透析性で、加熱処理で失活せず、プロテアーゼ処理で失活することから、ペプチド含有の耐熱性高分子物質であることがわかった。本誘導物質は耐熱性であることで、同細胞内液中の易熱性のレクチンとは異なると推定される。この物質は細胞内液から20-60%飽和硫酸アンモニウム沈殿画分に回収された。その精製は現在進行中である。なお、雌雄株の各細胞内液はそれぞれ異性株のオルガネラを凝集したことから、この凝集物質は性の違いに関係なく存在することがわかった。 今後、クロロプラスト凝集物質を単離し、その科学的性質を明らかにするとともに、プロトプラスト形成の誘導が同凝集物質単独でも行われるのか、あるいは複合系を伴うのか明らかにする予定である。
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