土壌面蒸発は表面を覆う土壌層の種類によって3段階に分類できる。表面が湿潤土層(WSL)で覆われ、気化が表面でのみ行われる第1段階、毛管切断が起こり気化が行われる層(PTZ)で覆われる第2段階、水分の移動が水蒸気体でのみ行われる層(DSL)で覆われる第3段階である。第2段階ではPTZとWSL、第3段階ではDSL、PTZおよびWSLの順で成層構造を成している(HeとKobayashi、1998)。 乾燥土壌面からの蒸発とは土壌面蒸発の第3段階を意味する。この段階の蒸発機構は極めて複雑である。乾燥土壌面近傍と接地境界層内では、晴れた日の日中、水蒸気は一見奇妙な挙動を示す。すなわち、水蒸気密度は高度と共に増すが(湿度逆転)、蒸発は起きている(逆勾配流れ)。代表者らはこのような現象を説明するための仮説を提出した(Kobayashiら、1998):乾燥土壌表面の温度は接地気温より10〜30℃高くなるため、地表面付近に大きな温度勾配が生じ、熱拡散によって乾燥空気が生成される。また、DSLを含めた地表付近は極めて不安定な状態になるため、ミクロな対流(MCJ)が発生し、地表付近で生成された乾燥空気または湿度逆転を接地境界層内へ送り込む。 したがって、乾燥土壌面からの蒸発速度は、土壌水分の減少量か土壌中の水分上昇フラックスを測定して評価する他はない。そこで、本研究では、DSL内の水蒸気上昇フラックスをリモートセンシングによって測定可能な土壌表面温度T_0と厚さ5cmの表土層の平均体積含水率θ_5から推定するDSLバルク法の開発を試みた(Kobayashiら、1998)。本法によって、砂漠など乾燥地面からの蒸発量をリモートセンシングによって評価することが可能になる。
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