本年度は、中間径フィラメント蛋白質であるケラチンに対する数種類のモノクロナール抗体を作成し、その免疫組織化学的特性をふまえ、それぞれのモノクロナール抗体の認識するエピトープの解析を行った。作成した抗体、MAb24、MAb26、MAb32、MAb61はそれぞれラットやウシの表皮細胞において分化特異的なケラチンの発現を示し、さらに、ヒトやウマの表皮サイトケラチンをも認識した。以下、ヒトの表皮組織におけるこれらの認識するサイトケラチンの免疫組織化学的分布について記載する。 MAb24 表皮基底細胞層および顆粒層細胞が陽性となったが、その中間層である有棘細胞層は陰性であった。すなわち、このMAb24の認識するエピトープは基底細胞層で発現するが、有棘細胞層で一度消失し、さらに、顆粒層細胞において再び出現するエピトープである。 MAb26 この抗体により、有棘細胞層および顆粒細胞層が陽性となったが、基底細胞層における陽性反応は検出されなかった。このことは、未分化な基底細胞が有棘細胞や顆粒細胞へ分化するに伴い発現のみられるエピトープであることを示す。 MAb32 この抗体は、基底細胞層、有曲細胞層および顆粒細胞層の全ての細胞に陽性反応を示し、特に、基底細胞層においてその陽性反応は強かった。このMAb32の認識するエピトープは細胞の分化に関わらず常に発現のみられる領域であるが、分化に伴い徐々にその発現量を減少させていることが示された。 MAb61 この抗体は上記した3種の抗体に比較して極めて細胞特異的な抗体である。すなわち、このMAb61は表皮基底細胞のみに発現されるサイトケラチン・エピトープを認識する抗体であり、有棘細胞および顆粒細胞へ分化すると速やかに発現の停止されるエピトープである可能性がある。また、表皮細胞では基底細胞のみが細胞増殖能を持つとされていることから、細胞増殖活性や分化抑制制御などと強い関連性が示唆された。 以上、表皮細胞の分化制御にサイトケラチンの異なるエピトープの発現が強い関連性を示すという研究実績が得られた。
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