研究概要 |
〈序論〉我々は簡便なtransgcnicマウス作製を目的に、マウス精巣へDNAを直接注入し、このDNA注入♂マウスと♀マウスとの交配により外来性DNAが精子を通じ、胎仔へ伝達されるかどうかを検討して来た。その結果、リポソーム(Lipofection;GIBCO BRI.社)/DNA複合体をマウス精巣へ単回注入することにより、外来性DNAが受精を通じ、高率(50-90%)に卵側(FO世代)へ伝達されることを明らかにした。しかしながら、外来性DNAは1細胞当たり1 copy以下であり、また、その遺伝子発現も検出されなかった(昨年度報告)。そこで今回、他の市販リポソームを検討することにより、導入遺伝子コピー数の増加、遺伝子発現の可能性を検討した。また、F0マウスへ導入された外来性DNAがF1,F2世代へ伝達されるかどうかも検討した。 〈方法〉外来性DNAとしてpCAGGS-lacZ plasmidを用いた。遺伝子導入試薬としては、非リポソーム系のFuGENE6(BeohringerMannheim社)及びSuperFect(Qiagen社)の2種を用いた。DNAと遺伝子導入試薬との複合体作製及びDNAと遺伝子導入試薬との比率は、おおよそ製造元のprotocolに従った。1個の精巣当たり6μgの直鎖状DNAを43μgの容量にて精巣の深部へ注入した。具体的な精巣へのDNA導入方法は昨年度の報告に依った。 〈結果/考察〉 1) 初期胚盤胞(F0世代)のX-Gal(lacZ遺伝子の基質で、細胞内にlaeZ活性があると基質が青く変化)による組織化学的染色では、FuGENE6及びSuperFectいずれを用いた場合でも20-70%の率で弱い染色性が認められた。Lipofectinの場合、染色性は上記2種の試薬に較べ、10%以下と低率で、しかも染色性は非常に弱かった。 2) しかし、妊娠巾期胚(F0)では、どの遺伝子導入試薬を用いても明確なlacZ活性は認められず、また、RT-PCR解析によるmRNA発現も認められなかった。従って、今回の条件では、遺伝子発現は胚盤胞を頂点とする一過的発現と考えられた。 3) 出産・離乳マウス(F0世代)の尾DNAのPCR-Southern解析では、FuGENE6及びSuperFectいずれの場合でも40-70%の割合で外来性DNAの存在が確認された。また、PCR増幅断片の単離、その塩基配列決定により、PCR増幅断片は、明らかに導入遺伝子由来であることが判明。 4) F0からF1への遺伝子伝達率は、10-30%と低率であった。これは、F0マウスの生殖細胞を含む組織では、導入遺伝子がモザイク的に存在していることを示唆する。実際、F0マウスの各組織における外来性DNAを調べると、組織によりその量がまちまちで、上記仮説を裏付けた。 5) しかし、Flマウス同士の交配で得られたF2マウスでは、その遺伝子伝達率は90%程で、一部の外来性DNAは、マウスゲノム中にintegrationされているとものと考えられた。 〈展望〉今後の課題は、何としても1)多コピー遺伝子の導入、2)導入遺伝子の発現(胚盤胞期以降の継続的発現)、の二つの問題をclearにずるための条件を探索することに尽きる。そのためには、市販の遺伝子導入試薬を網羅的にscreeningすることを考えている。例えば、F0胎仔(E12.5)をscreeningの対象にし、これら胎仔に対して、DNA解析(yolk sac DNAにおける外来性DNAのgenomic Southern法及びPCR-Southern法を用いた検出)、RNA解析(RT-PCR法によるmRNA発現の検出)、蛋白解析(X-Gal染色による蛋白発現の解析)を行い、上記2点がclearにされたかどうかを検討する。
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