粘液細菌Stigmatella aiurantiacaの子実体形成には、栄養飢餓、高細胞密度、光照射の3条件が必須である。また、本菌は子実体形成時に何らかの脂溶性のフェロモン分子を分泌すること、本分子を培地中に添加すると暗黒下においても子実体形成が誘導されることが知られている。そこでまず、3条件とフェロモン合成および子実体形成の関係を解析した。栄養飢餓条件に移行してから一定時間後にフェロモン合成が始まるが、その生合成に光照射が必須であることが明らかになった。細胞密度はフェロモン合成に影響を与えなかった。また、実際の子実体の形成は、このフェロモンの合成時期に遅れて始まるが、光照射はフェロモン合成時期にのみ必須であり、その後の子実体形成過程は、光とは無関係に進行することが判明した。さらに、ポルフィリン生合成系の阻害剤を用いた実験から、光の受容あるいはフェロモン合成までの情報伝達過程に、プロトポルフィリンIXまたはその誘導体が関与していることが明らかになった。 次に、脂溶性フェロモンの化学構造を明らかにする目的で、フェロモンの大量産生条件を検討した。決定した培養条件下で大量調製した培養液から、XAD-2カラムクロマトグラフィー、クロロホルム抽出、シリカゲルカラムクロマトグラフィーさらに4段階の逆相分配系HPLCを繰り返し、フェロモンを単離することに成功した。収量は、300Lの培養液から、約1μgであった。得られたフェロモンは、暗黒下において約0.5nMの濃度で子実体形成を誘導した。280nm付近と200nm以下の紫外吸収パターンから、ケトンの存在が示唆され、オキシムへの誘導実験により証明された。また、フェロモンおよびその各種誘導体のMSスペクトルの解析より、分子式はC_<12>H_<24>O_2であると推定された。現在、全構造を明らかにすべく解析を進めている。
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