本研究では、頻拍性不整脈治療における新たな手法として、病的心筋細胞に外来のK^+チャネル遺伝子を導入する試みを行う。病的心筋で発生する致死的な頻拍性不整脈は興奮波の旋回(リエントリ-)もしくは撃発活動(トリガード・アクティビティー)が原因と考えられる。病的心筋に外来のK^+チャネル遺伝子を導入、チャネル蛋白を発現させることにより、静止膜電位が過分極して興奮伝導が改善され、また、Na^+/Ca^<2+>交換機構を介したCa^<2+>排泄が高進して、撃発活動による不整脈発生が抑止されることが期待される。心筋のK^+チャネルには、一過性外向き電流型、遅延整流型、内向き整流型があるが、本研究では、著しい内向き整流性を持つため、活動電位持続時間をあまり変えずに静止電位を過分極させる効果が期待される内向き整流K^+チャネル遺伝子(IRK1)を心筋細胞に導入することによる不整脈治療の可能性を追求しようとする。 本年度は、研究の第一歩として、アフリカツメガエル卵母細胞に発現させたIRK1チャネルの基本的諸性質を「Whole cell」および「single channel」モードのパッチクランプ法を用いて確認し、引き続き、リポフェクトアミン法による新生児ラット培養心室筋細胞へのIRK1 cDNA導入を試みた。その結果、1.IRK1チャネル遺伝子を導入した卵母細胞において、Ba^<2+>およびCs^+によってブロックされる強い内向き整流性を示す電流が出現し、過分極側でのコンダクタンスが約500%増大した。2.新たに発現したチャネルの単一チャネルコンダクタンスは細胞外液中に45、90、150mMのKCIが存在するとき、それぞれ、9、13、24pSであった。3.試験電位-100〜-140mVにおいて単一IRK1チャネル電流の開時間ヒストグラムは時定数 約400msecの単一指数関数に近似され、一方、閉時間は時定数がそれぞれ、およそ10msecと90msecの2つの指数関数で近似された。これらの値はこれまで報告されている IRK1チャネル電流のものとよく一致した。4.新生児ラット培養心室筋細胞に対し、リポフェクトアミン法を用いてIRK1遺伝子cDNAの導入を試み、細胞全膜電位固定法、単一チャネル電流記録法の両面から、IRK1チャネルの発現量を目下確認中である。
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