本研究では、病的心臓で発生する致死的頻拍性不整脈について、薬物治療にかわる新たな治療法開発の可能性をさぐる目的で、成熟心筋細胞に外来の内向き整流K^+チャネル遺伝子を導入する方法の確立を目指している。病的心筋細胞ではカリウムコンダクタンスが減少して静止膜電位が脱分極していることが知られている。このため、正常な興奮伝導が阻害されて興奮波の旋回(リエントリー)による頻拍性不整脈や、撃発活動(トリガードアクティビティー)による不整脈が発生しやすい。このような心筋細胞に外来のK^+チャネル遺伝子を導入することにより、静止電位の過分極がもたらされ、興奮伝導の改善やNa^+/Ca^<2+>交換機構の活性化によるCa^<2+>排泄が促進されて撃発活動が抑止されることが期待される。 本年度は、リポフェクトアミン法にて、哺乳類培養細胞株(CHO細胞、CHW細胞)へのマウス由来の内向き整流K^+チャネル(IRK1)cDNAの導入を行い、チャネル蛋白発現をパッチクランプ法にて検討した。細胞全膜電位固定法により、Ba^<2+>とCs^+感受性の内向き整流性を示す電流が新たに発現し、。また、単一チャネル電流記録法により、細胞外側のK^+濃度が150mEqの時、single channel conductanceが約25pSの内向き整流カリウムチャネルの発現を確認した。チャネルの開時間・閉時間のヒストグラムなどからみたチャネルキネティクスも、これまでのIRK1チャネルの報告と同様であった。引き続き、生体の心筋により近い、新生児ラットからコラゲナーゼ・ディスパーゼなどを用いて新鮮単離した培養心筋細胞への同cDNAを導入を目指して、現在、種々の条件を試し最適な実験条件を検討中である。
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