ある疾病の程度により増減する化学物質があり、それが毛髪から検出できるとすれば、薬物の場合(今回フレカイニドで新たに証明した)と同様、毛髪分析によりその疾病の自然経過や治療による病態の変化を知ることができるはずである。毛髪蛋白質は体液中の糖により非酵素的にそのアミノ残基がある割合で糖化され、その糖化度で糖尿病の長期的な指標HbA1cと同様に糖尿病の自然歴や治療歴を知ることが期待できる。毛髪蛋白の糖化度の指標として毛髪を酸性条件下で加水分解する際に生じるフロシンに着目し、その微量定療法をLC/MS/MS法にて確立した。またフルクトース・リジンを合成し、毛髪処理と同じ方法で加水分解しフロシンを生成させて測定して検量線を作成し、更にフルクトース・リジンの4つの水素を重水素で置換したd4-ルルクトース・リジンを合成して、加水分解前にそれを加えておき、加水分解の程度を補正すると共に、質量分析する際の内部標準として使用するという方法を考案した。これによって毛髪由来のpgのフロシンを再現性良く測定することが可能となり、毛髪一本のしかも1cmの毛髪片の糖化度を十分測定することができるようになった。本方法を用い以下の検討を行った。検診にて経口ブドウ糖負荷試験を受けた人と明らかに糖尿病を有する人計42人から毛髪を採取し、頭皮側1cmの部分のフルクトース・リジン量を測定して毛髪採取時に測定したHbA1cの値と比較したところ、両者の間には統計学的に有意な正の相関関係が認められた。次に、糖尿病の治療によってHbA1cが過去に大きく変動した患者の毛髪を頭皮側から1cmずつに細断して各細断片のフルクトース・リジン量を測定し、毛髪成長方向の分布として表した。HbA1cの増減に示される糖尿病の経時的悪化・改善と共に毛髪中フルクトース・リジン量も経時的に増減していることが判明した。
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