研究概要 |
我々はこれまで,EBVエピゾ-マル・ベクターにより,種々の細胞に非常に効率良く遺伝子導入/発現が可能であることを示し,この系を遺伝子治療に応用する試みを行ってきた。本研究では,腫瘍細胞特異的に自殺遺伝子を発現させる2つの新しいシステムの樹立を試みた。 1 p53陰性がん細胞特異的な自殺遺伝子発現システム 多くのがん細胞において,がん抑制遺伝子p53の欠損,あるいは異常が認められる。そこで,p53依存性の転写のサイレンサー・エレメントを組み込んだEBVベクターを導入することにより,p53陰性がん細胞にのみ自殺遺伝子を特異的に発現させる系が可能であると考えられる。本年度はまず,サイレンサーを含んだ種々のベクターを構築することに成功した。さらにin vivoで導入するための基盤技術として,EBVベクターをカチオニック・リポソーム,あるいはHVJ-リポソームと組み合わせた系を確立した(Satoh et al.,BBRC誌,1997年)。現在この系を用い,p53依存性サイレンサーを含んだ種々のベクターによる発現について検討している. 2 EBV関連腫瘍特異的な自殺遺伝子発現システム EBVはBurkttリンパ腫,上咽頭癌などさまざまなヒト悪性腫瘍の発症に関与している。これらのEBV関連腫瘍はEBNA1分子を発現しており,EBV oriPを有するベクターを導入すれば高効率に外来遺伝子を発現させることが可能である(Mazda et a1.,JIM誌,1997年)。ヒトのほとんどの正常細胞はEBNA1陰性であるため,この方法により腫瘍細胞特異的な発現が期待できる。実際HSV1-チミジン・キナーゼを導入しガンシクロビルを添加することにより,in vitroでEBNA1陽性腫瘍細胞を特異的に殺傷することに成功した(Hirai et al.,BBRC誌,1997年)。現在,マウスを用いたin vivo治療実験を進行中である。
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