ウイルス感染細胞を蛋白質リン酸化酵素阻害剤H8で処理するとNS1のリン酸化が阻害され、さらに後期蛋白の翻訳促進が特異的に阻害された。NS1はリン酸化蛋白で、感染細胞内ではトレオニンが、試験管内のリン酸化反応ではセリンとトレオニンのリン酸化が確認されている。しかし関与するリン酸化酵素は同定されていなかった。ウイルス感染細胞内でのリン酸化酵素阻害剤を用いた結果では、NS1蛋白のリン酸化阻害は、G-キナーゼ(cGMP依存性蛋白質リン酸化酵素)の阻害剤であるH-8が最も強く、次にC-キナーゼ阻害剤H-7による阻害が見られた。A-キナーゼ阻害剤H-89や、KN-62、CKI-7、ML-7による有意な阻害は見られなかった。一方、試験管内リン酸化反応では、精製A-キナーゼ、C-キナーゼ、G-キナーゼのいずれによっても同程度に強くリン酸化された。in vitroでリン酸化によるNS1の翻訳調節とRNP結合活性の解析を行ったが、今までの所リン酸化による有意な活性制御は確認していない。一方、NS1蛋白に欠損を持つ変異ウイルスdl12とN110を、遺伝子組換えにより作成し解析した所、dl12はN端付近の12残基を欠失するが、温度感受性となり、39℃で感染後期にすべてのウイルス蛋白の翻訳が特異的に阻害された。また、N110はC端側52%を欠失するが、すべての温度で後期蛋白の翻訳だけが特異的に阻害された。また、NS1のC端側52%に主たるリン酸化部位が存在する結果を得た。以上の結果から、リン酸化酵素阻害剤によるウイルス複製阻害機構には、少なくともNS1が関与していると思われる。また、NS1は感染細胞内では翻訳制御に関っていて、G-キナーゼによるリン酸化がその活性制御に関っていると思われる。一方、in vitroのリン酸化ではその特異性が緩み、in vivoの現象を再現していないと思われる。
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