研究概要 |
一酸化窒素(NO)が心筋虚血再灌流において、障害を増悪するか軽減するかついて論議がある。一方、NOがMAP kinaseを、その他の活性酸素がProtein Kinase C(PKC)などの細胞内情報伝達系酵素を活性化することが知られているが、その病態生医学的意義は不明である。本研究においては、ラット摘出灌流心を用い、虚血時または再灌流時に生成されるNOがPKCを活性化するか否か、活性化する場合、心筋収縮不全を改善するか増悪するかにつて検討した。 NO産生酵素阻害剤L-NAMEを虚血時(20分間)に灌流した群、再灌流時(10分間)に灌流した群について再灌流後のPKC isoformのP1(核-筋原繊維)分画、P2(膜)分画、S(細胞質)分画の分布を検討した。虚血再灌流後、PKC-α,δ,ε,ζがP1分画に、PKC-αがP2分画に転移していた。L-NAMEを再灌流時に灌流した群ではPKC-α,δ,εのP1転移とPKC-αのP2転移が阻害されていたことより、これらのPKC isoformの転移(活性化)に再灌流時生成されるNOが関与することが示された。NO供与体であるSIN-1は、再灌流と同様にPKCを転移させた。さらに、試験管内でSIN-1が精製されたPKCを直接、活性化した。一方、左心室内圧を調べると20分虚血10分再灌流後、虚血前値の約25%にまで回復したが、L-NAMEを虚血時灌流したものでは灌流しないものと差がなかったが、再灌流時流したものでは、PKC阻害剤と同様に収縮不全を増悪した。すなわち、PKC転移に対するL-NAMEの作用と心筋再灌流障害に対する作用が相関した。 以上より、心筋の虚血再灌流時生成されるNOが直接PKCを活性化し、再灌流による心筋収縮不全を抑制、いいかえるとNOは心筋に対して保護的に働くことが示された。
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