壁細胞は胃腺を構成する細胞の一つである。A型萎縮性胃炎は、壁細胞上に特異的に存在するH-KATPaseのα・β各サブユニットに対する自己免疫的機序によって生じる。一方、壁細胞欠失トランスジェニックマウスでは、壁細胞欠失が他の胃粘膜構成細胞の発育障害を引き起こすことが報告された。これらの報告は、胃癌の前癌病変である萎縮性胃炎発症における壁細胞の関与を強く示唆するものである。これらの、冑粘膜萎縮機序の細胞・分子レベルでの研究には、高分化度、高純度の壁細胞の使用が不可欠であるが、従来、壁細胞研究に用いられてきた、単離胃腺、単離壁細胞、壁細胞初代培養系は、細胞の純度、分化度の面から、十分なモデルとはいいがたかった。 そこで、申請者らは、高純度で操作性が良く高分化度を保った壁細胞培養系の作成を試みた。ラットH-KATPaseβサブユニットプロモーターの下流に、細胞不死化作用を持つ温度感受性SV40largeT抗原DNAを配したプラスミドを作成し、このプラスミドを導入したトランスジェニックマウスを得た。このトランスジェニックマウスから胃を摘出し、単離胃腺細胞を作製し、温度感受性SV401argeT抗原の許容温度である33°Cで培養することにより、長期間培養可能な、高分化度壁細胞培養系を得ようとしている。 しかし、壁細胞のように、高度に分化した細胞を株化して継代することは、本法によっても容易ではなく、現時点では、長期にわたり、高度の分化度を維持する細胞系はまだ得られておらず、本研究の次の目標である壁細胞特異的に発現する遺伝子の同定は、あまり進捗していない。そこで、現在は、マウスヘの遺伝子の導入の段階から、すべての実験を再施行し、新たな壁細胞クローンを確立する努力を続けると同時に、比較的短時間のみ高分化度を維持しているクローンを用いて、壁細胞特異的に発現する遺伝子を同定する作業を進行させている。
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