私たちは不登校状態にある学生生徒1000名以上を診療しており彼らの中核症状が、うつ状態および睡眠障害を中心として集中力、思考力・判断力、持久力の低下状態にあることを観察してきた。 このような中枢神経の疲労状態を医学生理学的に検討した研究が見られないことから私たちはこれまで彼らの脳内の時計「体内時計」、について検討し睡眠覚醒リズム、深部体温リズム、ホルモン日内分泌リズムに狂いが生じ時差ぼけ状の生体リズムの混乱を示すことを明らかにしこの時計の狂いが慢性的な疲労を産むのではないがと考えるに至った。 彼らの大多数が睡眠覚醒リズムの異常を伴っていることから、今回は睡眠障害に注目し、35名について彼らの脳の温度を反映する深部体温とコルチゾール分泌日内リズムについて検討した。睡眠リズムは正常型(n=4)、睡眠相遅延型(n=15)、非24時間性睡眠型(n=5)、過眠型(n=8)、その他(n=3)に分類した。 深部体温測定では、コントロールと比較して不登校群において日内振幅が有意に小さく、夜間の深部体温が有意に上昇しており特に過眠群でこの傾向が目立った。 コルチゾールは、コントロール群に比べ不登校群で分泌量の低下が認められた。 更に不登校群の中で正常型に比べると睡眠障害を有する群でコルチゾールが早朝にピークを示さない日内リズム異常が有意に多いことが観察された。 正常状態では深部体温最低時間とコルチゾールのピーク時間とは一定した間隔が保たれているが睡眠障害群ではこの関係が破綻していることが確認された。 このことは不登校状態の学生たちの脳内の時計に時差ぼけ的混乱が生じておりこの混乱が慢性的精神活動低下状態を作り出している可能性を示唆している。 若年層における生活リズムの問題は想像以上に彼らの能力を低下させている可能性が明確となり今後のこの分野の研究は急を要する大きな問題である。
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