Down症候群を代表とする染色体不分離に起因する染色体異常症では、母親の加齢に伴ってトリソミーが増加する。このことは、染色体不分離が卵子形成過程で高頻度に生じていることを示している。現在までの染色体不分離に関する説は、1)成熟分裂期染色体の早期分離説、2)紡錘系の形成不全あるいは退行変性説などが存在する。しかし、明らかなリスクファクターとしての加齢現象を直接説明出来るものではない。我々は、卵子形成期の染色体分離過程に必要なエネルギーの供給不全が本病態の本質と位置づけ本研究を計画した。現在までにDown症(21トリソミー)12例、13トリソミー3例、18トリソミー4例とその他の染色体異常症(Digeorge症候群3例、Vaterassociation2例、Prader-Willi曲症候群3例)の患者由来のDNAよりミトコンドリアDNAのセグメントの塩基配列の偏りを、PCR-SSCP法により検索し、塩基置換が疑われた症例では分離後サブクローンし、塩基配列の決定を行った。その結果、これら染色体不分離をもつ個体の母親では、正常人ですでに病的点変異として報告されているものに、A3243G(MELASですでに報告されているtRNALeu(UUR)遺伝子)、今まで報告されていない多型としてT4386C.A4343G(tRNAGln遺伝子)、G5773A(tRNAAsn遺伝子)、A8348G.A8296G(tRNALys遺伝子)、G12192A、A12172G(tRNAHis遺伝子)、T12311C(tRNALeu(ASN)遺伝子)、G15927A(tRNAThr遺伝子)などが判明した。新たに判明したミトコンドリアDNAの多型は、ミトコンドリアエネルギー代謝にどのような影響があるのか、現在この多型がどのような頻度で正常人にみられるのか検証中である。
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