本研究では、放射線および腫瘍に特異的な低酸素環境を用いたがん遺伝子治療のターゲッティングを将来の目的として、その準備段階として放射線照射および低酸素刺激に対する応答遺伝子発現の増強を試みた。 低酸素応答配列(HRE:Hypoxia Response Element)を含むヒトVEGF(VascularEndothelial Growth Factor)遺伝子の5'非転写領域およびエリスロポイエチン遺伝子の3'非転写領域を取り出して、pGL3に組込んで、レポーター・ベクターを作成した。各プラスミド・ベクターを腫瘍細胞にリン酸カルシウム法で導入した後、6〜12時間の低酸素曝露下での培養を行い、ルシフェラーゼ活性を測定し、低酸素刺激による特異的遺伝子発現を得ることができた。 本年度は、さらに特異性を高めるべく、VEGFの3'非転写領域の付加を行い、低酸素応答実験を行った。結果、6時間後の比ルシフェラーゼ活性の低酸素/酸素条件比では、約1.5倍の発現増強を得ることができた。一方、12時間後の測定では、約20%の発現比の低下、比ルシフェラーゼ活性の絶対値の低下も認めた。将来、治療遺伝子を組込む際の選択技の一つとして有用であることが期待される。 低酸素応答が一番強く認められたレポーター・ベクターのレポーター遺伝子部分をβガラクトシダーゼ遺伝子に置換して、X-Gal染色実験を行った。HepG2を用いた実験で、低酸素刺激群の特異的な染色が認められた。この結果から、治療遺伝子を組込んだレポーター・ベクターも充分な効果が得ることが期待されるので、治療遺伝子を用いた実験を検討中である。
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