私はこれまで、単離尿細管微小潅流法を用いて、ヘンレの細い上行脚(ATL)のクロライド再吸収の機構について詳細に研究した結果、クロライド再吸収の大部分が細胞間隙ではなく、細胞を通過しておこなわれ、細胞内pHの調節が主に血液側細胞膜上にのみ存在するNa/H交換輸送系によること、細胞内Caの調節が血液側細胞膜上にのみ存在するCaチャンネルとCaポンプのバランスによること、抗利尿ホルモン(AVP)がクロライドの受動的再吸収を選択的に促進する事、腎髄質内層における尿対向流濃縮機構の授動説、能動説論争に対して、1993年受動説を証明し、ヘンレの細い上行脚では、細胞を経由してのNaの能動輸送はなく、細胞膜上のチャネルによるクロライドの受動的再吸収が尿の濃縮にきわめて重要な役割を果たすことを明らかにしてきた。 最近、新生児期にこのヘンレの細い上行脚が、実は太い上行脚と同様の形態を示しているという驚くべき事実がすでに1950年代、Krizらによって報告されていたことが注目され、この形態変化がapoptosisとremodellingによることをフランスのグループがしてきている。この時期は、丁度ヒトで言うならば、生理的体重減少が見られる新生児早期に当たり、尿の濃縮力が未熟な時期に相当する。とすると、ヘンレの細い上行脚の成熟が尿の濃縮力の成熟にとって、きわめて重要であることを示唆することになる。しかし、実際にまだ細い形態に変化していないヘンレの細い上行脚が、成熟時と同様の機能を備えているのか、あるいは鳥の腎臓で見られるようにNaClの能動輸送能をもった太い上行脚の性質を示しているのかについては、まったく知られていない。 今回の研究では、生後0日から2週間の新生児ラットの太い形態を持ったヘンレの細い上行脚を単離尿細管微小潅流法を用いて潅流し、経上皮電位を測定した結果、管腔側正の電位の存在を確認しえた。この電位はフロセミドやバリウムを管腔側に投与することにより低下し、また生後日数に比例して低下し、2週間では消失した。 以上のことから、今回の研究結果として、生直後のこの尿細管には能動的なNaCl再呼吸機序が存在することがほぽ確認された。 今後、研究の進展により、その詳細が明らかにされるものと期待される。
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