[目的]免疫炎症部位における白血球と血管内皮細胞は接着することによってお互いに活性化され、2細胞系のそれぞれのシグナル伝達によってさらなる炎症反応を誘導するとされている。白血球は血管内皮細胞と接着することにより活性化され、血管内皮細胞は白血球との接着により細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)の上昇を引き起こす。ずり応力などの「流れ」に関連する力は、潅流液中のATPの濃度に応じた[Ca2+]iの上昇を誘導する。そこで個々の細胞の[Ca2+]i変化を画像化できる蛍光顕微鏡装置を用いて、エンドトキシンで刺激したヒト臍帯静脈血管内皮細胞上に好中球を流し、好中球との相互作用による血管内皮細胞内Ca2+シグナル伝達に「流れ」がどのように作用するか検討した。 [方法]血管内皮細胞はヒト臍帯静脈よりコラーゲナーゼを用いて採取し、ヘパリンと内皮細胞増殖因子を添加した10%血清入りRPMI1640で培養、実験には第2〜5継代のconfluent cultureを使用した。白血球はヒト末梢血をクエン酸採血し、デキストランによる赤血球沈降後、Ficoll-Hypaqueでリンパ球、単球を除き、残った赤血球を低圧溶血して得た好中球を用いた。 Ca2+測定用のガラスプレート上に内皮細胞をconfluentに培養し、lipopolysaccharide(LPS)(1μg/ml)で4時間刺激した後、Ca2+測定用蛍光色素のFura-2を取り込ませ、ハンクス液(HBSS)で満たしたflow chamberにそのガラスプレートを置いて好中球を流し、蛍光顕微鏡下に内皮細胞内の[Ca2+]i変化を10秒間隔で60回(10分間)測定した。 [結果及び考察]LPS刺激なしの内皮細胞では有意な[Ca2+]iの変化は認められず、LPS刺激下の内皮細胞では[Ca2+]i濃度の有意な上昇が見られた。LPS刺激下でも「流れ」のない状態および、「流れ」があっても好中球の存在がない状態では、内皮細胞内に有意な[Ca2+]iの変化は認めらなかった。これらのことから、「流れ」は好中球の多数存在する血流に曝され、エンドトキシンで活性化された血管内皮細胞のCa2+シグナル伝達を誘導し、炎症反応の始動または促進に寄与していることが示唆された。 [結論]本研究によって明かにされた好中球を介した活性化血管内皮細胞の[Ca2+]i上昇における「流れ」の重要さから、「流れ」は、好中球が多数存在する血流に曝され、エンドトキシンで活性化された内皮細胞におけるCa2+シグナル伝達を誘導することにより、炎症反応の始動あるいは促進に関与していることが示唆された。
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