膵の微小循環を見ると膵小葉内の動脈血流の15〜20%はまず膵島に達し、その後膵島周囲の腺房あるいは小導管に至る、膵に特有の膵島腺房門脈系・膵島導管門脈系と呼ばれるシステムが存在している。本研究の目的はラ島内に存在する新しい増殖因子が膵島腺房門脈形、膵島導管門脈系を介して、外分泌膵の増殖、再生機構にいかに関与しているかを明らかにすることにある。我々は、まず、EGF関連ペプチドであるbetacellulinに着目し、in vitroの検討として、複数のヒト膵癌細胞株の増殖に対するbetacellulinの作用を調べた。betacellulinは濃度依存性にヒト膵癌細胞株(Panc-1、ASPC-1、MIA PaCa-2)の増殖を促進し、その程度はEGFに匹敵するものであった。次に、in vivoの検討として、膵再生におけるbetacellulinの関与を調べた。すなわち、66%膵切除をおこなったラットにbetacellulinを投与し、膵重量、膵のDNA・RNA・蛋白含量、組織像を検討した。なお、betacellulinは腺房細胞、膵管細胞の過度の増殖を抑制するnegative growth modulatorとして働いている可能性も考えられたので、切除膵の再生を促進させることが知られているプロテアーゼ阻害剤(camostate)を投与した状況下でも、上記の検討をおこなった。膵重量、膵のDNA・RNA・蛋白含量、組織像でみる限り、betacellulinはcamostate投与下でも非投与下でも切除膵の再生過程に影響を与えなかった。現在、さらに、膵再生における内因性betacellulinの関与の有無をみるために、マウスで同様の膵切除を行い、残膵のbetacellulin mRNAの発現をノザンブロットにより検索中である。また、betacellulin以外に、reg蛋白に関しても、今後同様の検討を行う予定である。
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