研究概要 |
今年度は胸腺腫に浸潤するリンパ球系細胞の分化度について検討を加えた。 (対象)拡大胸腺・胸腺腫全摘された胸腺腫手術材料(N=10)を用いた。全例胸腺腫腫瘍内浸潤リンパ球(TIL)系細胞を分離し、うち3例については正常胸腺部分のリンパ球系細胞(TC)を分離した。リンパ球分化のマーカーとなる表面抗原(CD3,CD4,CD8,CD10,CD19、CD34,CD38)の発現について、モノクローナル抗体染色・flow cytometryを用いて計測した。また、胸腺腫の臨床・病理学的検討を同時に施行した。 (結果)胸腺腫臨床病期分類は正岡分類I期7例、II期1例、III期2例であった。組織所見はRosai分類にてround-oval 6、mixed 3、spindle cell 1であり、リンパ球優位2、中等度以下8であった。表面抗原発現については、B細胞系マーカーであるCD19はTIL,TC両者に認められなかった。TIL,TCいずれもCD3+CD4+CD8+のコンポーネントが多く、有意差が認められなかった。CD34は両者とも染色されなかった。CD38は両者とも染色され、有意差は認められなかった。CD10陽性分画についてはTILでは22±10(平均±標準偏差)%、TC4.8±3%と有意差は認められた(P=0.0003)。CD10+分画はCD3弱陽性、CD4強陽性であった。 (考察)CD10(CALLA)はB細胞系やNeutrophilに発現されるが、T細胞系では胸腺でpositive/negative selectionを受ける以前の未熟な細胞でのみ発現されるTILはCD19陰性CD3/4/8陽性であるため、TILでかなり未熟なTリンパ球系細胞が多数存在する事となる。骨髄からT系細胞が胸腺腫に集まるが腫瘍内で分化が妨げられたか、または分化せず増殖している可能性が示唆された。
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