まず、動物実験のモデルとして脳損傷モデルの確立を目指した。fluid peroussion modelなども試みたが、良好な損傷のコントロールが得られなかった。試行錯誤の結果、損傷の程度をコントロールしやすく再現性の良い凍結損傷モデル(cryogenic injury model)を確立することができた。このモデルにおいて、損傷を作成した右大脳半球では著明な水分含有量の上昇を評価でき、浮腫の形成を確認した。次に、このモデルを用いて頭部外傷急性期の代謝改善効果が期待できる脳ペプチドとして、成長ホルモン(GH)を投与した。GHは近年、脳内のニューロペプタイドとしてもその役割が注目されているが、このGHが損傷脳の脳浮腫に及ぼす影響を検討した。またGHは、最近になって多発外傷患者の蛋白異化亢進に対抗できる薬剤として検討されており、実用的な意味でも重要な研究である。その結果、GHは損傷脳の脳浮腫を増強させないことを明らかにした。以上の成果は、1997年のAmerican Association of Surgery for Traumaの演題にも採用され注目された。 ケトン体投与に関しては、以上の実験系で確立した脳の凍結損傷モデル使用して、ケトン体輸液が損傷脳の脳浮腫に及ぼす影響に関する研究を行った。この結果、4時間の急性期モデルでは、ケトン体による損傷脳の脳浮腫抑制効果は明らかではなかった。別のメカニズムによる脳浮腫についても検討を計画中である。
|