研究概要 |
従来哺乳動物の中枢神経伝導路は、再生しない、若しくは極めて部分的な再生しか起こらないとされてきた。しかし、京都大学川口らによるネコ小脳遠心投射に関する先駆的研究(J Comp Neurol245:258-273,1986)により、限定を受けない完全再生が可能であることが明かとなった。 私たちは、哺乳動物の中枢神経伝導路は、どんな経路であれ、潜在的には極めて大きな再生能を有しているとの観点から、ラット(8〜45日齢)の錐体路の切断実験を行った。錐体路の標識にはWGA-HRPを用い、大脳皮質のトレーサー注入部位から脳幹、脊髄においては仙髄の下端まで錐体路の全走行にわたって観察した。その結果、部分的な再生も含めると、42匹全てのラットにおいて、何らかの再生が観察された。42匹のうち30匹においては、切断部にグリア癜痕若しくは嚢胞が形成され、再生線維が延髄切断部を僅かに越える、あるいは異所性の走行をきたすといった限定的な再生を示した。一方、42匹のうち12匹においては、グリア癜痕あるいは嚢胞いづれも形成されず、ほぼコントロールに匹敵する、完全再生が観察された。すなわち、再生線維は延髄錐体部を通過し、錐体交叉を形成したのち、後索を下降し、後角に終末を形成しつつ、仙髄にまで達した。 本課題科学研究費の支援を受け、以上の成果をNeurosci Lett247:151-154,1998に発表した。
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