本研究の目的は、五線譜と音楽記号を主体とした動作解析であるべ-ネシュ運動記載法(BMN)の臨床評価への導入である。今年度は、BMNを用いた脳卒中片麻痺患者の歩行の歩行分析評価の妥当性と信頼性ついて検討した。歩行因子を1.四肢・体幹の空間的位置変化、2.角度変化の位置・角度因子、3.遊脚相・立脚相の割合、異常動作の出現時期、歩行速度・歩調の時間因子、4歩幅、非対称性、足位置の距離因子5.下肢の歩容を示す円滑さの因子、6.補助具・補装具の因子で分類し、記号数を求め分析した。その結果、健常例の記載から逸脱した記号が示され、その総数も多かった。このことは、歩行様式、四肢、体幹の異常姿勢、跛行など、歩行全般にわたって捉えられた結果といえる。記号総数の内訳をみると、位置・角度因子の記号数が他の因子の記号数に比べ有意に多く、四肢・体幹の要素では上肢と下肢の記号数に有意差はなかった。また、脳卒中片麻痺患者の回復段階の指標であるBrunnstromstageが低いほど位置・角度因子や上肢、体幹の記号数が有意に多く、連合運動や痙性の影響で出現する上肢、体幹の異常姿勢等を反映した。また、四肢、体幹の要素はBrunnstromstageと有意な関連を示し、これが高いと上肢の記号数が著しく少なくなった。このことは、特に上肢の位置・角度変化の異常が少なくなり、相対的に下肢の記号数が多くなること、また、下肢は多くの歩行因子を反映するため、Stageが高くても様々な問題点を残すと考えた。以上の結果から、BMNは、身体各部位の状態や多様な問題点を記載できるとともに、記号数の分析によりそれらの問題点を量的に表現できると考えられた。また、症例の機能・能力障害の経時的な評価にも利用できると推察される。観察による評価は、即時に状態を把握し、動作のパターン分析に優れた方法であるが、観察者の注視点や主観的解釈により影響され、監査と修正の重要性が認識された。
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