【目的】プレショックを始め、四肢冷感なと末梢循環不全状態時に用いる漢方薬として、熱剤がある。しかし、この種の漢方薬の西洋医学的検討は、附子を除いて見当たらない。一方、エンドトキシンショックの治療法はいまだ、手探りの状況であるが、薬物療法は依然中心的な治療法である。そこで熱剤としての四逆湯類がエンドトキシンショックの治療にどの程度有効か、有効ならばどのような機序によるのかを明らかにする。【方法】SPFのWister系雄性ラットを用い、大腸菌0111 B4のエンドトキシン(LPS)を生体反応惹起物質とした。投与量は研究目的に応じてLPS 9、6、0.6mg/kgを腹腔内または静脈内へ投与した。四逆湯類(甘草、乾姜、附子、茯Α苓、人参で構成)はヒト投与量の5倍をLPS投与前または後にを経口投与した。死亡率、体・微小循環、末梢血液像、サイトカイン等を観察、測定した。【結果】生存率は四逆湯が最高で、甘草乾姜湯が最低で、LPS単独治療群と差がなかった。生存しえたラットの平均血圧は蒸留水単独治療群では51±4 mmHgに対して、四逆湯治療群では77±6 mmHgと高く、死亡率は88%に対して50%と改善した。腸間膜細小動脈内での赤血球速度の低下、好中球数の上昇と遊走を抑制した。またLPSにより引き起こされたIL10のの増加を抑制し、CD8+の低下を抑えることでCD4_+/CD8_+比の過度な上昇を抑制した。血小板数の低下抑制傾向が認められた。さらにショックに伴う胃粘膜の潰瘍形成を抑制した。【考察】四逆湯類、特に四逆湯はLPSにより惹起された循環、免疫系の病的偏位に対する調整作用を介してショックを改善した結果、生存率向上を得た。またショック改善の中心的役割の生薬は附子と生存率の検討から推測した。【結論】四逆湯はエンドトキシンショック治療薬としての可能性を認め、循環・免疫の両面からその効果を発揮した。
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