平成9年度に引き続き、吸入麻酔薬としてのキセノンガスの鎮痛効果について、ヒトを対象に研究を行った。なお、我々は、4年前より当施設の倫理委員会より許可を得て、キセノンを研究目的で臨床症例に用いている。 手術予定患者よりインフォームドコンセントを得た後、キセノン70%+セボフルラン0.6%、キセノン50%+セボフルラン1.2%、亜酸化窒素70%+セボフルラン1.2%、またはセボフルラン2.6%(いずれも同じ麻酔深度)のいずれかで全身麻酔をかけ、手術開始時の皮膚切開前後の血行動態および血中カテコラミン濃度を測定し、各麻酔薬の鎮痛効果の指標とした。その結果、鎮痛効果がないとされるセボフルランのみの麻酔では、血圧と脈拍がともに約30-4%上昇したが、亜酸化窒素やキセノンを加えた群では15-20%の上昇に抑制された。 また、キセノン50%、キセノン70%、亜酸化窒素70%のいずれかに様々な濃度のセボフルランを加え、血圧および脈拍が皮切前後で15%以上変化させないようにするセボフルランの濃度を求めたところ、キセノン50%と亜酸化窒素70%では等しく、キセノン70%ではそれより少量であることが判明した。 以上の実験で、血中カテコラミンは血行動態変化と全く相関しないことも併せて判明した。また、この研究中、市販の麻酔用呼吸モニターに、キセノン使用により大きな誤差を出すものがあることが判明したので、これについて系統的に調べた。 以上より、キセノンは亜酸化窒素と同等の鎮痛効果を持つことが明らかになった。しかし、キセノンは亜酸化窒素より催眠作用が強く、この点で亜酸化窒素より有利であると考えられる。
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