研究実績の概要 子宮内膜症患者血清中に認められる抗子宮内膜抗体の臨床免疫学的意義はいまだ不明である。我々は、細胞膜表面抗原に対する抗体に的を絞り、生細胞を用いたFlowcytometryによる検討を行い、子宮内膜上皮および間質細胞を認識する抗体の存在を証明した。しかも、内膜症患者血清の抗体価は有意に高く、これらの抗子宮内膜抗体にはγ鎖、μ鎖、κ鎖、λ鎖の全てが含まれており、子宮内膜症患者におけるポリクローナルB細胞活性化状態の反映が示唆された。特に内膜症患者ではlgM型抗子宮内膜抗体が異常高値を示すことが我々の研究で明らかとなった。もし抗子宮内膜抗体の中に、単なる結合ではなく子宮内膜組織の異常増殖や分化障害を誘発するlgM型抗体の存在が証明されれば、それは内膜症そのものの起因物質となりうる。また、子宮内膜組織特異的な抗原に対する抗子宮内膜抗体の存在もそれは子宮内膜症の原因ないし増悪に特異的免疫反応が関与している可能性を強く示唆する。そこで、我々は子宮内膜症患者血清からlgM型抗体をそれぞれ精製し、細胞への効果を検討し、一部の患者抗体に子宮内膜細胞増殖活性を検出した。一方で、内膜症患者血清を卵巣癌細胞もしくは子宮頚癌細胞で吸収した後に血清を子宮内膜上皮細胞および子宮内膜間質細胞と反応させることにより、患者血清中に内膜細胞特異的に反応するlgG型ないしlgM型自己抗体の存在をも証明した。これらの事実は、子宮内膜症患者血中の抗子宮内膜抗体が単なる非特異的B細胞活性化状態の反映だけでなく、その病因の一部に自己免疫的機序が存在することを示している。目下、子宮内膜症患者血清中の自己抗体の特異性や特異的対応抗原についての解析を行っている。また臨床的には特異的抗子宮内膜抗体価が漢方製剤の治療の指標になることを発見した。現在、このメカニズムについても解析中である。
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