研究概要 |
本研究は歯の硬組織に発現する特異な周期模様や、その形成細胞が示すリズミカルな形態変化についての本態を解明することを目的に、それらを制御するプログラムが遺伝子上ではなく、生体内の非ゲノム化学反応系にあるのと仮説を検証しようとするものである. 初年度の本年は、非平衡化学反応系の一つであるBelousov-Zhabotinskii反応(BZ反応)を用いた自発的パターン形成システムを構築し、エナメル質や象牙質など、歯の硬組織に発現する周期パターンと相同のパターンを発生させるための反応条件設定を行った.更に発現したパターンをビデオ画像に記録してその動態を解析した. BZ反応は一種の酸化還元反応で,反応条件によっては視覚的に認識可能な一定のリズムを発生し(時間的振動反応),更にこの反応系を空間的に展開させることで周期的な縞模様を発生する(空間的振動反応).空間的振動反応は時間軸に沿った化学反応の伝翻であり,BZ反応ではこれが特有な縞状パターンとして伝翻する.本実験で用いたBZ反応の反応液は硫酸、臭素酸ナトリウム、フェロイン、マロン酸の混合液で、これをシャーレや特性の二重ガラス管等に展開すると、暗赤色の反応液中に次々と青い動的な縞状パターンが発生する.本年度の成果として、同心円状、螺旋状、階段状など、GBHA染色によって成熟期エナメル質上に発現が確認されている縞状パターンと相同のパターンが、この反応系で総て再現された.更に発生するパターンが容器の形状と反応液の量に依存して決定されることも初めて確認された. 以上、初年度の研究から、歯の成熟期エナメル芽細胞層やエナメル質中に発現する周期パターンが、細胞層または細胞外基質における特異な物理化学反応を反映した現象である可能性が大きいことが示唆された.次年度はパターン形成シミュレーションシステムを確立するとともに、歯の形成細胞を人為的に操作して、細胞層における機能変化がパターン形成に及ぼす影響ついてin vivoの検索を行い、仮説を検証する.
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