C57BL/6マウスに温度感受性突然変異株SV40LargeT抗原遺伝子(tsA38)を導入したトランスジェニックマウス(2.5〜3か月メス)から歯肉粘膜、舌粘膜、切歯根端部、顎下腺の各組織を無菌的に採取し初代培養を行った。1.歯肉粘膜と舌粘膜は可及的に上皮下の結合組織を除き、0.25%トリプシン液で一晩(4°C)静置した後、翌朝、上皮と間葉組織を分離した。上皮組織をピンセットの背でしごいて、single cellsの細胞懸濁液を調製して培養した。培地は無血清合成培地(日水製薬、SFM101)に2%牛胎児血清とEGF(1μg/ml)を加えたものを用いた。その結果、約2週間後には上皮細胞のコロニーをみとめたが、紡錘形の線維芽細胞様の細胞も混在した。培養後52日めに96-wellプレートを用いて段階希釈法でクローニングを行い、葉肉粘膜由来の上皮細胞株5株と線維芽細胞様3株をえた。上皮細胞株の増殖の速い1種についてヌードマウスに移植した結果、この細胞に腫瘍原性(tumorigenesity)がないことを確かめた。舌粘膜組織を培養して得られた上皮細胞はプレート上に十分に進展した細胞で増殖率が低かったため、混在していた線維芽細胞が優勢となりついには消失した。2.顎骨を摘出し切歯根端部が露出するようにハサミで二分割して切歯根端部を採取し、組織を細切して培養した。培養後3日には組織片周囲から細胞が遊出し始めた。歯髄細胞に類似した(細胞質が豊富な点で結合組織由来の線維芽細胞と異なる)間葉系細胞と立方形の上皮様細胞が混在した。歯髄細胞様細胞はゆっくりとではあるが増殖を続けた。培養6ケ月後にクローニングを行い6個の株細胞を得た。混在していた少数の上皮細胞は増殖せず途中で絶えた。3.顎舌腺組織の培養は組織片培養と0.05%コラ-ゲナーゼによる分散法との2つの方法で行ったが、株化細胞は得られず方法の改良が必要であった。今後は得られた株細胞の増殖率や細胞の分化度などを検討しこれらの細胞の有用性を検討する予定である。
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